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私の市大20周年(6)情報科学部教授 角田良明


20年間のネットワーク分野の発展と将来有望な人材を育てるための提言

私は広島で生まれ広島大学で博士を取得するまで広島で育ちました。その後、国際電信電話株式会社(KDD)研究所に務めて8年、大阪大学に移って7年が経とうとしていた頃、当時、広島市立大学の教授であった天野橘太郎先生から広島市立大学にプログラム工学講座の教授として来ないかと誘われました。天野先生は元KDD研究所で首席研究員を務められた方であり、私が同研究所で通信ソフトウェアの研究を行っていたことをご存じだったからです。生まれ育った故郷である広島において教育研究を行う貴重な機会を与えていただいた天野先生には今でも感謝しております。
私が本学に着任したのは、平成10年(1998年)ですが、当時、情報工学専攻・学科は7つの講座で構成され、ネットワークの研究を行うのは情報ネットワーク講座しかありませんでした。そこに私が加わり2つの講座がネットワークの研究を始めることになりました。数年後、日本電信電話株式会社(NTT)研究所におられた吉田彰顕先生が情報数理学講座の教授として本学に移ってこられました。平成19年(2007年)の情報科学部・研究科の組織改編による研究室制への変更に伴い、環境メディア研究室として情報工学専攻・学科に加わりました。また、情報ネットワーク講座とプログラム工学講座はそれぞれ情報ネットワーク研究室、ネットワークソフトウェア研究室に変更されました。さらにこのとき、同専攻・学科にインターネット工学研究室が誕生し、同専攻・学科を構成する8研究室の半分の4つの研究室でネットワークの研究に取り組む体制が整いました。それ以降、4つの研究室ではネットワークの研究を精力的に進めた結果、情報通信関連学会および広島地域では広島市立大学のネットワークの研究に対する知名度は高まってきています。私の編著である「ネットワークソフトウェア」(共立出版、2013年発行)の第11章「ネットワークソフトウェアの将来展望」で述べていますが、ネットワークの研究は社会からの要請が大きくさらなる発展が十分に期待されています。

巷ではカープ女子が増えているというニュースが流れています。金満球団が高給で実績のある選手を集めて優勝するのは難しいことではなく、素質のある選手を育てて優勝を目指す広島カープの球団方針に共感を覚える女性が増えた結果ではないかと思います。広島カープは市民の球団ですが、広島市立大学は市民の大学であり、広島カープの育てて勝つ球団方針を見習うべきではないかと考えています。金満球団では将来有望な選手であっても実績のある選手が多すぎて常時試合に出ることができません。ところが、広島カープでは将来有望な選手は常時試合に出ることができます。試合で失敗しても素質のある選手はその経験を活かして育っていきます。本学では、平成19年(2007年)の法人化以来、教員ポストが増やせない状況にあり、特に教授についてその傾向が大きいようです。このような状況において若くて将来有望な人材をいかに育てるかが問われています。広島カープでは素質のある選手に常時試合に出る機会を与えているように、広島市立大学でも将来有望な教員に責任ある立場に立たせて思い切り教育研究をさせてみることが重要ではないでしょうか。例えば、准教授の中で将来有望な教員には研究室長として思う存分やらせてみることです。将来有望かどうかの見極めが正しければ、そのような機会をきっと活かして活躍してくれるはずです。他大学に負けない立派な成果を上げた准教授は教授に昇格させることを検討すればよいのです。将来有望な人材を育てて社会、地域、学会での本学の評価を高めるという発想が本学の発展に繋がると信じています。

若くて将来有望な教員には、是非、海外に目を向けてもらいたい。私の30年来の友人にMiroslaw Malek 教授がいます。現在、スイス・ルガーノ大学の教授ですが、私が博士後期課程のときに国際会議FTCS で初めてお会いしたときには、アメリカ・テキサス大学オースティン校の准教授でした。私がKDD研究所に在籍したときに幾たびか同大学を訪問し、共同研究を進めました。その後、ドイツ・ベルリン・フンボルト大学に移られました。私は大阪大学に在籍していた間も国際会議で会うだけでなく、Malek 教授を招聘したり訪問したり交流を継続していました。最近のグローバル人材育成の機運の高まりに伴い、ドイツ・ベルリン・フンボルト大学との国際学術交流協定の締結を試みましたが、その頃、同大学からスイス・ルガーノ大学へ移られようとされていて難航しました。しかしながら、後任のScheuermann教授を紹介していただき、締結に成功しました。ドイツ・ベルリン・フンボルト大学との国際学術交流協定の締結は、Malek 教授との継続的なつながりが結実したものです。また、平成22年(2010年)の国際会議MENSの基調講演で私が提唱した「アシュアランスネットワーク」は、平成2年(1990年)にMalek 教授が提唱していた「リスポンシブシステム」の概念を一般化してネットワークに応用したものであり、やはり国際交流の成果です。本学の将来有望な教員には積極的に国際交流を進めてもらい、国際会議において論文発表するだけでなく、国際会議で活躍する海外の研究者と親しくなって交流を深めていってもらいたいと希望しています。このような国際交流の経験が財産になり、将来活かす機会が必ず訪れます。広島市立大学には将来国際的に活躍できる有望な人材を育てて、その活躍の結実でもって広島地域に貢献できる大学になってほしいと切に願っています。

平成26年(2014年)11月1日・2日のホームカミングデーに卒業生の皆様、参加しませんか。本学での思い出や本学の将来について皆様と語り合うことを楽しみにしています。

<写真説明>
ベルリン・フンボルト大学においてMiroslaw Malek 教授と一緒に撮った写真(2004年10月1日)